ヤマモモは当時の僕らにとっては、貴重な果物だった。
実は大きくはないが甘酸っぱくて美味しいし、たくさん採れるし、栽培されたものではなく山に自然に実っていた。
ご存知の方も多いと思うが、雌雄異株で実がなるヤマモモの木は貴重だった。だから僕ら子供たちは、どこに実がなるヤマモモの木があるかはよく知っていた。
そのヤマモモの木の大木が学校へ登校路から少し離れたところにあった。子供の両手では挟みきれないほどの大木で幹のところを登って枝先まで登るには容易ではない木だった。いつもは、その大木の下で紫に熟れて落ちている実を拾って食べていた。
ある日、上を見上げると幹を登った枝先に魅力的な紫色のおいしそうな実がたくさん付いているのが見えた。僕は、下に落ちた実を拾って食べるより、どうしてもその実が採りたくなった。登るには大きすぎる幹で枝が出ている場所までは、掴む枝がなかったため、幹の抱き付きながら3m程度登る必要があった。
僕は思い切って、幹に抱き付きながら少しずつ登り始めた。休み休みながら僕は登った。漸く、掴める枝があるところまで登り、その枝を掴んで体をその枝の上まで運んだ。その枝の先には、紫色の実がたくさん見えた。
今度は、その枝先まで手を伸ばして実を採る順番だが、実がなっているところまでは手が届かない。どうしようかと思ったが、左手で別の枝を掴みながら、右手で目的の枝を掴んで曲げて、実を手元の方に持ってこようと精一杯の力を入れた。簡単ではなかったが、枝はしなってきた。
「もうすぐ手元まで来そう!」と思ったが、左手を離す訳には行かず、どうしようと思った。その時、「バキィ」と音がして右手で掴んでいた枝が折れた。ヤマモモの実がたくさん下に落ちたが、自分もはずみでバランスを崩して落下しそうになった。
何とか落ちず、折った枝を下に落とし、ヒヤヒヤしながら、また幹を抱きながら木をおりた。
木から降りて、枝についた実や落ちた実も拾って集めた。たくさん採れた。
夕食の時か、自分から話したかどうか定かではないが、父親がヤマモモの木はものすごく折れやすいと教えてくれた。危なかったかも知れないと思った。この経験を通じて、木登りの時は、折れやすい木かどうかを慎重に考えるようになった。