「おっと相当出ているぞ!」
僕は、家から少し離れた草地の丘のところに来ていた。友達とワラビ摘みだ。
野焼き跡のその場所は、ワラビが摘みやすかったのでそこに来ていた。春休みの後半の頃だったと思う。茎の部分を根本からポキポキ折って摘むだけだったので、生えている場所を上手く見つければ、簡単にたくさん摘めた。
母が、ワラビのみそ汁が好きだったので採ってくると喜んでくれた。僕たちは一生懸命にそれぞれに摘んでいた。
「あれ? 遠くに人影が見える」
僕は、その人影が二人で、男と女のように思えた。
「しぃー。誰かいるぞ。隠れよう」
僕たちは、その二人に気づかれないように身を隠した。
「アベックだぞ!」
僕らは興奮しながら、身を隠してその人影が誰かを確かめようとした。もう、ワラビ摘みどころではない。
身を隠しながら、少しずつ近づいて行った。
「あっ! 〇〇先生だ」
男の方の正体は分からなかったが、女は僕らの中学校の先生だった。気づかれたらまずいと思った。この二人の様子を見てみたいとは思ったが、その気持ちよりも気恥ずかしさの方が大きかった。僕らは、静かに、静かに身を隠しながら、その場を離れた。もう少しで採ったワラビを袋からこぼしそうになった。
家に帰ってワラビを母に渡した。
見かけた二人のことは、もちろん黙っていた。
それから、どのくらい経ったか覚えていないが、中学校の〇〇先生が同じ学校の先生と結婚されたとのうわさを聞いた。
僕の住んでいた島は、小さくてデートスポットもなかったので、ワラビ摘みに行っていたその丘がデートの場所だったのだと思った。
少し大人の世界を見たという、甘酸っぱい思い出である。