1950~2024年、田舎生まれの体験記など

カズラ島冒険顛末記

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「あれっ! 潮が引いてしまって船動かないぞ」

「困った。どうしよう……」

僕たちは、伝馬船でカズラ島までウベ(ムベ)を採りに来ていたが、帰ろうとした時にその船が動かないのに気が付いた。

ウベは、僕らの集落の近くにも採れるところはあったが、崖っぷちに生えている木の上の方に絡まった蔓の先の方に数個なっている程度で、子供たちが採れるとことは限られていた。カズラ島は、僕らの集落から伝馬船で1時間くらい離れた島でウベの宝庫とされていた。この日は、たまたま子供たちだけて船が使え、かわりばんこに、船をこぎながら子供たち3人だけでこの島まで来ていたのだ。

 カズラ島の海岸の岩場と岩場の間の砂礫の浜部分に船を留めて、僕らは勇んで蔓が茂っている島の高くなっている部分を目指した。必死にウベを探して島の奥近くまできたが、ななかなかウベは見つからなかった。場所が悪かったかも知れないし、時期が早すぎたのかも知れない。ただ、今日は、Mさんの孫のTちゃんのお陰で船が自由になったからこの島まで来られたのだ。

 しかし困ったことになった。来たときは十分水深があり、上手く船を着けられた場所だったのに、2時間程度の間に状況が変わってしまった。伝馬船といえども、子供たち3人では押してもびくとも動かない。潮が満って来るのを待つしかなかった。

 しかし、秋の夕方は陽が沈むのが早い。潮は少しずつ満ってきつつあったが、少しずつ暗くなってきた。3人とも親には今日の行動のことは何も言っていない。まずいと思った。

 船がやっと動くようになった頃には、日が暮れようとしていた。まだ、暗すっかり暗くなっていなかったが、家のある海岸の方まで着く内には相当暗くなっていると思われた。僕ら

は必死で櫓を漕いだ。半分くらいまで来たときには日が暮れてしまったが、部落の方角は見えていた。そして、その方向に家の灯りらしきものが見えていた。

 部落近くの海岸近くまでやっと来られた。その時、海岸の懐中電灯の灯りみたいなものが見えた。そして大人の声が聞こえてきた。僕らはその方向に船を進めた。海岸では僕の父親を含めて5人程の大人が待っていてくれた。ことの重大さがその時初めて分かった。

 その日、僕は父からこっぴどく怒られると思って怖かった。しかし、不思議なことに父はこの日のことは怒らなかった。

カズラ島の位置図
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