家の近くにタブと呼んでいた汽水の大きな池があった。70m×70mくらいの広さはあったが、深さは、深いところでも1mはなかったと思う。
このタブでは、ハゼ、ウナギ、ボラ、チヌなどが釣れて、子供の遊び場にもなっていたが、大人にとっても漁場の一つになっていた。
夏が近づいていた頃であった。友達が言った。
「タブで夜、エビが獲れるそうだ」
「エビ!」
大人たちが獲っているとのことであった。エビは、僕の田舎では貴重なもので、滅多に獲れるものではなかった。甘辛く煮たりすると美味しいことは知っていた。
「どうして獲るの?」
「カンテラで照らして、エビ用の網で掬って撮るのさ」
僕は物凄くエビ獲りに行くたくなった。父親に相談した。
子供がカンテラを使うのは危ないし、エビ用の網も家にはないと父親が言った。それでもどうしてもエビ獲りに行きたいと思った。
父親は懐中電灯を使うことを提案してくれて、エビ用の網も買ってくれることになった。
ある夜、ついにエビ獲りに行くことになった。
夜、タブに行くと、既に何人かの大人が獲っているようであった。カンテラの灯りが見える。僕は、タブの浅いところから懐中電灯を照らして入った。
懐中電灯の先に、エビの目が光っているのが見える。エビはもの凄く動きが素早い。エビの気付かれないように、エビのしっぽの方から網をそっと近づけていき、すばやくかぶせる。なんどか失敗をしたが、少し要領が分かってきた。
その夜、十数匹を獲ったと思う。家に帰り、父親と母親に見せた。
翌日、母親が甘辛く煮て食べさせてくれた。獲った時は大きなエビだと思ったが、煮たものは、5~6㎝だった。
それから、カンテラを父親が近所から借りてきてくれたこともあったが、何度かして長続きはしなかった。
エビの種類が特定できないのは、残念である。