僕はさっきから川底の様子をずっと見続けていた。石積みの護岸沿いをゆっくり歩きながら、川底にいるハゼを探していた。
ドンコはいっぱいいるのが見えるが、ハゼはなかなか見つからない。時々、ボラの子の群やチヌの子も居た。チヌは釣りたいが簡単には釣れないことは分かっている。ハゼであれば、今日準備している餌——ヤドカリの腹部分——であれば、直ぐに食い付くはずだ。家の台所の流し口付近に山ほどいるシマミミズでは食いが悪いのは分かっている。
「おっ!ハゼかも」
大きな石の陰部分にハゼらしい魚が見えた。よく確かめると間違いなさそうである。僕は、餌を付けた針を慎重にハゼの口の前に落とそうとした。少しずつ竿を操って餌を近づけていった。水流もあるのでそう簡単にはいかない。それでも何回かするとハゼの口の前まで餌を運ぶことができた。
「ぱくっ」と食べたのが分かったので直ぐに合わせた。竿先が少し曲がる程度で簡単に上がった。中くらいのマハゼであった。大きくなると簡単には上がらないこともあったが中サイズであった。地面に置くと大きく口を空け、ムナビレを広げている。少し黒っぽく見えるが美しいハゼだった。ハゼは鱗をはがし、ハラワタを取り、水できれいに洗ってから醤油と砂糖を使って甘辛く煮るともの凄く美味しい。
一匹では少ないので、もう少し探そう。たくさん釣れれば、夕ご飯のおかずになるかも知れない。