「足が着かない!」
僕は、そう思った瞬間、手足をバタバタさせてもがいた。少しは泳げるかと思っていたが、そうはいかなかった。
溺れるかも知れないと思ったかどうかも記憶が曖昧である。
その時、誰かが素早く飛び込んで来て、僕を突堤まで運んで助けてくれた。僕は溺れずに済んだ。
僕は、母親の実家に遊びに来ていた。その家の直ぐ下は海で、実家の家他所有の伝馬船が係留されている石造りの突堤とその突堤に守られた小さな入り江があった。
そこで遊んでいたのだが、住んでいた家の海岸と違って、その海岸は、勾配が急だったのだ。いつも遊んでいた海岸は遠浅で少しくらい移動しても水深が変わることはなかったが、そこは違っていた。それが原因で溺れそうになったのだ、多分、小学校に上がる前の頃だったと思う。
母親の弟たち(叔父たち)と遊んでいたのだが、直ぐに気付いて突堤から飛び込んできて僕を助けてくれた。水を飲むとか大事には至らなかった。僕の唯一の溺れかけた事件となった。
助けてくれたのは、六つ上のT叔父だったと思われる。
母親に顛末を報告したかどうかは不明だが、怒られた記憶はないので報告はなかったと思う。T叔父他から「これで泳げるようになるよ」と言われたと記憶している。
それから1年もしない内に泳げるようになった。