僕らは「ウベ」と呼んでいたが、正式名は「ムベ」である。宮中に献上されている伝統的果物とされており、果肉部分は甘くてアケビよりも味が濃いように思う。熟した頃の赤~濃い紫になる皮の色も大変美しい。食べる部分は少ないが貴重品であった。たいていは、大きくて高い木の先端近くまで伸びた蔓の先に実が付くので、大人での上手く採るのは難しい果物だった。
そのウベが山のようにあるという島が「カズラ島」だった。カズラは蔓のことだが、ウベの蔓に覆われている島と勝手に想像していた。
子供たちだけて伝馬船で渡って親たちに大変な心配を掛けたが、うわさ程にウベはなかったのではと思われる。捜した場所が悪かったかも知れない。
カズラ島は、大人と一緒に「マテ貝掘り」などに何度か行った。また、大人になってからであるが、近くで船からチヌ釣りなどをしたこともある。
700m×150mの細長い無人島である。私の住んでいた集落からは直線距離で1.1km程度の場所にある。子供のころ島伝いに泳いで渡ったことが一度ある。帰りは定期船航路を跨いで最短の岸まで約500mを渡って帰ったが、定期船航路を跨いだので少し怖かったことを覚えている。