春、大潮で潮が一番引いた時間帯、通常は、水面下に隠れていた磯の部分の様々なサイズの石コロが顔を出す。その石コロには、ノコギリモクなどの海藻がびっしり付いていたりした。
そんな石や岩礁に付いた海藻の隙間から、時々真珠貝(アコヤ貝)を見つけることができた。滅多にないことであったが、真珠貝の中には、天然の真珠が入っていることがあると聞いていた。年上の子が見つけたとの話を聞いたことはあったが、僕は手にしたことはなかった。でも、真珠貝は塩ゆでにすると美味しく、食べ応えもあった。
「今日は、他の人より早めに来た」と思った。
しかし、水際まで来ると、返されている石がかなりあることが分かった。僕は、長靴の中に水が入らないきわどい深さのところまで海水の中に入って、返されてない石を見つけていた。そして、子供の力で返されるぎりぎりの大きさの石を返した。
「おっ! 1個見つけた」
チュウチュウ貝は、姿形が良く手に取ると嬉しかった。それでも数個とれれば良い方だった。僕は、チュウチュウ貝の他、真珠貝を獲った。それでも家に帰って湯がいてみんなで食べるには量的に少なかったので、大抵、マガリを獲った。
マガリの正式名は、ネットで調べるとオオヘビカイとのことである[1]。これは、岩礁や石ころの塊をなしてくっ付いていて、たくさん居た。父親の話では、磯ものではこれが、一番味が良いとのことであった。
塊の場合は、獲った後で一つ一つにばらした。そして湯がいた後、曲がっている形のお尻の方をペンチなどで少し傷つけ、それから反対側の口の方からチュウチュウ、口で吸いだすと中身が口の中に入ってくる。ペンチの切り口が開いていないと空気が出入りしないので中身は出て来ないし、あまり大きく開け過ぎると空気だけが出てきて、中身が出てきにくい。出てくると嬉しく、美味しかったが時には、貝殻の屑なども入ってきて簡単には中身だけ食べるのは簡単ではなかったし、中身は少ないのでたくさん食べる必要があった。なお、チュウチュウ貝の呼び名は、このオオヘビカイのことと勘違いしているかも知れない。
僕の田舎では、今では、真珠貝やチュウチュウ貝は、ほとんどいなくなったと思う。ただし、マガリは誰も獲らないのか、今でも獲れると思う。
春頃、家の中が磯ものを塩ゆでしたにおいで一杯になるのは、良い思い出である。