文・開高健、写真・秋元啓一の『フィッシュ・オン』の新潮社の文庫本は、1974(昭和49)年に出されている。大学は卒業していたが、研究室で仕事をさせてもらっていた頃だ。多分、大学に近い本屋の本棚でたまたま見つけたと思う。
文庫本には珍しく、中に、釣りをしている様子、様座な魚たち、風景などの写真が多く挿入されており、それだけでも気に入った。そして、文章を読むと、表現は正しくないと思うが「洒落ており、かつ奥行きもあって」、気に入った。後で知ったことだが、写真を担当した秋元啓一氏は、開口健とともに「ベトナム戦争」の取材にも同行しており、命の危機を共有した間柄でもあったとのことである。
この本で、私が釣りの時に使っていた「掛かった!」「きた!」「やった」「うう!」が、英語では「フィッシュ・オン」ということを知った。
また、本の冒頭に、ロダンの言葉「都会は石の墓場です。人の住むところではありません」が掲げられている。彫刻家として石を見つめていたはずのロダンが、そんな言葉を残しているのかということも初めて知った。田舎生まれで、田舎で中学生まで過ごした私が、福岡市に住みながら今後、東京に就職のために出ていくかどうか考えていた時に、少し影響を受けたかも知れない。
あとがきには、何故、小説家であった開口が、何故、このような釣りの旅に出たのかも簡単な理由も書かれている。
前置きは、この程度にしておき、この本は、開口と秋元が、アラスカのキングサーモン釣りから始まって、スウェーデン、アイスランド、西ドイツ、ナイジェリア、フランス、ギリシャ、エジプト、タイ、日本と釣りをする様子のルポルタージュである。
最初のアラスカでのキング・サーモン村の小さな宿屋に泊まっての「キング・サーモン釣り」に挑戦する姿は、釣りの細かい描写の他に、宿での秋元と二人での過ごし方が、軽妙に描かれており、写真もあるので想像しやすく、酒を楽しむ様子などが恰好良いと思えた。
二番目のスウェーデンでは、釣り具の成果的メーカーのアブ社の山荘の招かれて、バイク(カワカマス、日本には生息していない)を釣る話である。
豪華な山荘を自由に使って良いと言われ、互いを「殿下(開口)」「閣下(秋元)」と呼び合う。そう呼び合いながら、酒を楽しみながらの会話が楽しい。ルアー釣りの方法も詳しく紹介されているが、私は、ヨーロッパの金持ちの余暇の過ごし方の一つ、釣りのための山荘を持っているというところが興味深かった。
アイスランドでの「北極圏の景色の写真」、西ドイツでの「牧場を流れる小川で釣った水玉模様のあるマスの写真」など、眺めるだけでも価値があると思う。
他の国でも文章、写真ともすべて楽しめる。
私は、本に使えるお金を持てるようになってから、『フィッシュ・オン』の単行本を買った。そして、引き続き、出版された『もっと遠く!』『もっと広く!』や『オーパ!』『オーパオーパ!』も未だ手元に置いている。